小阪 裕司様

物ではなく「人にフォーカスする」ことを大前提として、今「心の豊かさの時代」に、何が消費者にのぞまれているのか・繁盛している人のものの見え方など視点・思考のお話から、人の心を掴む・動かすとはどうやってやるのかなど具体的な実践のお話、さらに実際にやっている人がどんな結果を生んでいるのかまでの観点を踏まえて、ご講演頂きました小阪氏に今回はebsとして単独インタビューさせていただきました。定例会の詳細はこちら

博士(情報学)小阪裕司様
―「買いたいのスイッチを押す」というお話しがありましたが、 そもそも、自社商品の価値やお客様にとっての魅力を読み取れず、相違が生じている場合があると感じました。自社商品のお客様にとっての魅力を探る方法として、何か良い方法を一つ教えていただけますか?
小阪裕司氏:
われわれはどうしても作り手・売り手の思考に立ってしまいやすく、買い手の思考にはなかなか立てないものです。ワクワク系では、その思考に立つための思考支援ツールとして、私が開発した「価値要素採掘マップ」を用意しています。そのように、なかなか立てない買い手の思考に立つには、立つための手掛かりが必要です。
ヒントをひとつ出しておきます。よくある間違いとして、ほとんどの方が売ろうとする商品やサービスの「特長」を探し、それを伝えようとします。しかし、探すべきは特長でなく「お客さんが買う理由」です。「お客さんが買う理由」とはすなわち「それを買って使うことで、お客さん自身に何がもたらされるか」です。ここがポイントです。自社商品の価値や魅力を探ろうとすると間違えやすい。「お客さんが買う理由」を考えましょう。
―お客様にとっていいことは全て伝えましょうということですが、この伝えるということが実は難しいと思うことがよくあります。伝えたいことを上手に伝えるためのコツはありますか?
小阪裕司氏:
“コツ”というものは“ノウハウ”とは異なり、まさに“つかむ”性質のものです。「上手に伝える力」とはまさに“実践知”と呼ばれるものの典型で、実践をし、実践からのフィードバックを得て考え、学びを得て再び実践するという繰り返しでコツがつかめるものです。「伝える」という行為を何度もやってみて、お客さんの反応を見ながら改善するうちに、「こういう感じなら伝わるな」「これだと伝わらないな」とコツが分かってきます。
ただ、伝える際の留意点は幾つもあります。例えば質問1で回答したこと。その商品やサービスの価値を伝える場合には、「特長」ではなく「買う理由」を伝えることで、より価値は伝わるようになります。
―会社として、常に人にフォーカスして行動をおこしてもらうことをいくつ考えられるかが大事ということですが、それを習慣化して考えだす仕組みを構築し成功されている事例があればお聞かせください。
小阪裕司氏:
習慣化して考え出す仕組みがない状態の典型は、やってやりっぱなしになっていることです。習慣化できている会社はPDSA(plan=計画、do=実行、study=実行からの学び、act=改善)をしっかりやっています。
また、実践知を身につけるには個人差が生じるため、社内で早くから取り組んでいる人や成果を出している人のやったことを共有することも必要です。ワクワク系の実践企業のなかの多店舗展開をされている会社では、社内で「最高事例共有会議」なるものを推進している例もあります。
さらには、基礎となる理論や実践手法を一部の人だけでなく、全社で学べる環境を作ること。
習慣化できている会社は、規模の大小や業種を問わずこれらのポイントを押さえています。
―ワクワク系を実施し、見事V字回復をされた事例をご紹介いただきましたが、中にはなかなか結果がでない場合もあると思います。その場合、どれくらいのスパンで判断をして軌道修正をかけていけばいいでしょうか。また、判断材料はどこに重点を置くべきでしょうか。
小阪裕司氏:
これまでの経験から言えば、結果が出ないケースには大きく分けて2つあります。1つは、理論と実践手法を正しく理解していないこと。もうひとつは、実践の量が足りないことです。
前者の場合は、どれだけやっても成果につながりにくく、時間と労力をロスします。軌道修正以前に、まず正しく学べる環境に投資するべきでしょう。
後者の場合は、実践量を増やすこと。実践知というものは量が質に転換する特質を持っていて、たとえば価値をお客さんに伝えるツールを作るにしても、1ヶ月に1つ作るのと1日に1つ作るのとでは上達の速度が大きく異なります。
また、実践上の間違いに自分で気づくためには、正しい知識や情報が常に入っている必要がありますし、学び合いの仲間の存在が重要です。それらが欠けていると、自分一人で気づくことはなかなかできません。
自分で分かった気にならないこと。一人合点しないこと。それには正しい知識・情報を常に得られ、学び合いの仲間が集う環境に身を置くことが必要です。
―当イーコマース事業協会は「売上げ向上・技術向上のための勉強、並びに会員相互の会員交流・情報交換を通じて、電子商取引を含む健全なる情報化を社会に普及させることを目的とする」団体でありますが、ご講演を終了してみてのご感想や、定例会の印象などお聞かせいただけると幸いです。
小阪裕司氏:
国内のイーコマース事業者数は数十万と聞きますが、その中でも特に商売にも学びにも熱心な方々の集まりとお見受けしました。新しいことを最初に受け入れる人々、いわゆるイノベーターやアーリーアダプターが多いのではないでしょうか。思い立ったらすぐ行動に移すフットワークの軽さも感じられます。そのように学び、行動することを続けられることは素晴らしいですね。
会場で名刺交換させていただいた方々には申し上げましたが、今の時代、知識・情報をできるだけ多く取り入れ、いいと思ったら即座に行動に移し、その結果から得た気づきや学びを基に次の行動を考えなければなりません。これをいかにスピーディーにやれるかが問われています。そういうサイクルを経て身につく実践知が重要です。
イーコマースであっても、他の商売であっても、これからの繁盛の決め手となるのは、価値創造と顧客創造の実践知をどれくらい持っているか。そういう意味でも、このような学び合いの文化、仲間が集う場も貴重と言えるでしょう。
○特別講演タイトル
「心の時代」にモノを売る方法
~見える人にしか見えない商売繁盛の仕組みづくり~

○講師プロフィール
オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学) 小阪 裕司 氏

山口大学人文学部卒業(専攻は美学)後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。
人の「感性」と「行動」を」軸にした独自のビジネスマネジメント理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会である「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在、全都道府県および海外から約1600社が集う。
近年は研究にも注力し、工学院大学大学院博士後期課程修了。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。
著書は、最新刊『「お店」を変えずに「悦び」を変えろ!』(フォレスト出版)はじめ、新書・文庫化・海外出版含む39冊。
九州大学客員教授、静岡大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事


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